充実のイングランドサッカー中継
【海外通信員】2009年12月03日

 イングランドに移り住んでから感銘を受けたことのひとつにサッカー中継がある。内容が非常に充実しているのだ。

 たとえばチェルシー対マンチェスターUのようなビッグゲームになると、キックオフの1時間前から放送を開始。ゲーム終了後もさらに1時間にわたり検証がなされ、実際の試合を含めると中継は3時間半以上にも及ぶ。サッカーファンにとってはまさにうれしい悲鳴で、盛りだくさんの内容で試合を満喫することができる。

 送り手の英テレビ局がもっとも重きを置いているのは試合を多角的に伝えることだ。中継番組が試合の実況を行う現場班と、俯瞰的な立場から検証する解説班の2部編成になっているのもその表れだろう。

 キックオフの前は後者の「解説班」が中継を担当し、試合の見どころをピンポイントで紹介していく。ゲスト解説者として監督やOB、ときには現役の選手が招かれ、対戦チームの戦術や選手のコンディションについてあれこれと意見を並べる。例を出すと、11月末に行われたチェルシー対アーセナル戦ではフルハムのロイ・ホジソン監督が出演。精力的なプレーを見せているチェルシーのDFアシュリー・コールについて、「攻守の貢献度が極めて高い。今季のチェルシーはダイヤモンド型4-4-2の布陣でウィンガーを置いていない。それだけに彼の攻撃参加は貴重だ」とプレー映像を交えながら力説していた。このホジソンだけでなくゲスト陣はいつも豪華で、ルート・フリット(元チェルシー)やジェイミー・レドナップ(元リバプール)といった著名人がたびたび出演し、それぞれの分析を披露している。

 キックオフの時間が近づくと、事前に収録された出場選手のインタビューを流して雰囲気を盛り上げていく。そして試合が始まるころになれば、サッカーファンは自然とゲームで注目したいポイントを把握しているようになるわけだ。

 グラウンドに選手が登場したら、中継の担当は「現場班」へ。実況はピッチで起きていることを忠実に伝えていく。動きの良い選手に賛辞の言葉を投げつつ、「ゴールが取り消されたオフサイドの判定は正しいか」、「PKの判定は妥当か」といった際どい判定についてもリプレイを使ってその場で検証する。

 試合終了後はふたたび解説班が登場し、試合のターニングポイントや監督の采配を振り返りながら、ゲームをおさらい。解説陣の個性がハッキリ現れるのもこの時で、最近ではグレアム・スーネス元リバプール監督(91~94年に在籍)の発言が強く印象に残っている。

 チャンピオンズリーグ・グループリーグ第4節でリバプールがリヨンに引き分けると、「ラファエル・ベニテスがほかのビッグクラブの監督ならとっくに解任されている」と激怒。厳格な人物として知られるスーネスの怒りはこれだけではおさまらず、「十分な補強費を手にしながらジェラードがいなくなると並みの集団に成り下がる」とチームの現状に不満をぶつけた。

 ただ、いつも感心させられるのは、中継しているテレビ局側もこうした過激な意見を試合の題材として視聴者に提供していることだ。意見の相違から解説者同士が激しく衝突することも少なくないが、基本的にはノーカットで放送する。熱の入った議論もサッカーの醍醐味のひとつとして捉えているからだろう。

 もちろん試合後も議論はまだまだつづく。当日の夜は1時間半にわたって試合のダイジェスト番組が放送され、翌日には英各紙が10ページ以上を割いて前日のゲームを伝える。イングランドのサッカー文化はこうして築かれてきたように思える。(田嶋康輔=ロンドン通信員)

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